あらすじ
補習の時間、放課後の教室で、私はクラスの教え子に体を許してしまう。野球部のゴツゴツした手で全身をまさぐられ、立場も忘れて大声でよがってしまう。イケナイことだって分かっている。だって私、結婚を控えた身だから……
※約3800文字
放課後の教室
頬杖をついてぼんやり眺めていた。
すると突然、彼が顔を上げた。
目が合った。
慌てて視線を逸らした。
「先生、今俺のこと見てただろ?」
「ち、ちがっ、カンニング、してるんじゃないかと思って……」
その場しのぎの言い逃れとしては最悪だ。言うに事欠いて生徒に向かってカンニングだなんて……。
「ひでぇな、先生。そんな事できるわけないだろ」
頬を膨らませ、彼は教室内を見回した。
「だね、ごめん」
少し開いた窓から、もわっとした風が入り込む。夏草の匂いがした。
永田一樹。
夏服の彼と教室で2人きり。カンニングする相手も、させる相手もいない。
もしかしたら、彼はわざと赤点を取ったのかもしれない。そんなことを考えてみる。私の追試を受けたくて。
わけないか。思い上がり。
「先生さ」
「何?」
「もしかして俺のこと好き?」
「は?」
思い上がりは永田一樹の方だ。と、非難したいところだけど、彼の一挙手一投足に最近翻弄されてばかりだった。
だって私、恋しちゃってる。
毎晩寝る前に彼のことを考えたりする。
それだけで、泣かされる。
もうすぐ結婚を控えている身でありながら――。
引き下がるくらいなら…
「ほれ、終わった」
永田一樹がテスト用紙をヒラヒラさせながら、教壇に向かってきた。
「ちゃんと見直したの? まだ時間あるよ?」
首をひねり、壁掛け時計を確認しながら手を差し出すと、ふいに温かいものが触れた。
「ちょ、何してんの!」
手を握られたのだ。慌てて振り払った。テスト用紙が床に落ちた。
「結婚するんだって?」
永田一樹がまっすぐに私を見つめてくる。それで鼓動が激しくなる。顔が赤くなっていないか心配だった。
「うん、そう。誰に聞いたの?」
なるべくそっけなく聞き返すのが精一杯だった。
「そいつ、俺よりいい男?」
私の問いには答えず、彼が顔を寄せてきた。息が苦しくなる。緊張にたえられなくなり、テスト用紙を拾おうとしゃがんだ。
すると彼は私の後ろに立ち、
「先生のこと襲っていい?」
そんなことを言い放った。
言葉の意味をとっさに理解できず、私はテスト用紙片手にぼんやり立ち上がった。するといきなり、本当にいきなり、振り返る私に永田一樹は抱きついてきた。
「やっ! 何してんの!」
「ごめん、我慢できなかった! ど、どうしよう……」
なぜか彼も慌てている。
「離れなさい」冷静に。冷静に。そう自分に言い聞かせる。
「やだ……」駄々っ子のような彼の声。
「大きな声出すよ?」
「それも、やだ……」
「何なのいったい?」
「どうして結婚なんかするんだよ……俺みたいなガキじゃ、太刀打ちできねえじゃん……」
弱々しくつぶやくと、彼は腕の力を弱め、私から離れた。
彼の逞しい腕の感触が消えていく。
「私の結婚相手、頭いいんだ。医学部出て、でも医者にはならないで国立の研究機関で働いてる。ガンから人類を救うんだって、息巻いてる。だからそうだね、君じゃ太刀打ちできないよ」
「そっか……」
「彼、秋になったら渡米するの。数年は向こう。結婚して、私はもちろんそれについて行く。だから君と会うのは終業式が最後。もうサヨナラだね」
視線も肩も落とした彼が、ちょん、と頭を下げ、自分の机に戻って行く。広い背中が遠くなる。
「引き下がるの?」
口が勝手に動いた。
「あっけなく引き下がるくらいなら、最初から余計なことしないでくれる?」
勝手なのは口だけじゃない。
熱いものが頬を伝い、止まらなくなった。
「永田一樹! 野球バカ。赤点なんか取ってんじゃねーよ! アンタのことなんか、すぐに忘れる!」
あふれて止まらない想い。
どうしてだろう。どうしてこんなに好きなんだろう。
「俺にしろよ、先生」
彼は私の元に戻ってきて、再び私を抱きしめた。強く。強く。
教室で勢い任せのキス
ショーツを脱がされ、彼の机の上に座らされ、脚を広げられた。そのまま永田一樹が覆い被さってきて、
「先生、好きだ。好きだ、好きだ」
うわごとのように繰り返し、唇を重ねてきた。
私はそれを受け入れる。下唇を甘噛みし、引っ張って離す。上唇に吸い付く。歯茎を舐めると彼が舌を出してきたので、そのまま吸い上げた。ジュプ、と音が漏れた。じゅる、じゅる、くちゅ。
勢い任せのキスの後、唇が離れると、彼は首筋に舌を這わせてきた。
「はんっ……」
「ああ、やべえ。気が狂いそう」
彼は私の声に過敏に反応する。
舌は首筋を這うだけではなかった。
強く吸い付いてきた。
キスマークで赤くなるだろうけど別にかまわなかった。私は彼の頭を抱え、お返しに彼の首にもしるしを付けた。
「やべえ、やべえ!」
息がどんどん荒くなる。彼の腰がもぞもぞ動いている。
私は彼のベルトを外し、ズボンの中に手を突っ込んだ。ガチガチになったソレを握った。
恋人とつい比べてしまう。
固さも大きさも永田一樹の方が一回り上だった。
若い。圧倒的に若い。
「欲しい……」思わず口をついた。
「先生、俺……」なのに彼の戸惑った声。
「初めて?」
「うん……」
情けない表情と声がかわいかった。筋肉質で日焼けして、一見いかつい彼には似合わない雰囲気だった。
「心配しないで」
彼のエラをさすりながら、ソレを私の中心に誘導した。トロトロになった裂け目の入口にあてがい、
「そのまま入ってきて」と言った。
誰かに目撃されてしまうかもしれない、というリスク。彼の大きなモノに対する恐怖に似た期待。恋人への罪悪感。
そして何より永田一樹に抱かれる悦び。
それらがごちゃ混ぜになって、心臓があり得ないくらい跳ね回っていた。
教室の外は部活中
「先生! ああっ、うわぁぁ!」
雄叫びを上げながら彼が私の中に侵入してきた。
奥の奥までたっぷり塞がれて、息が止まる。
声も出ない。
視界もかすむ。
腕から力が抜け、机からずり落ちそうなった体を、永田一樹はその屈強な肉体で抱え上げてくれた。
俗に言う駅弁状態だ。もちろん未経験。埋まる。自重で深くまで埋まる。
「んっ、くぅっ……」
初めてで、しかも駅弁なんて、ちょっと酷な気がしたけど、永田一樹は体全体を使って突き上げてくる。
そのぎこちなくもダイナミックな動きのせいで、かえって滅茶苦茶にかき回されて、快感がつま先から頭のてっぺんまで駆け巡る。
私は必死になって首にしがみついた。意識を保つため、彼のアゴや頬を噛んだ。
「いてっ、いてーよ先生!」
それでも永田一樹は動きを止めない。どこまでも強く、深く突き上げてくる。
そろそろヤバいな、と思っていると彼は私を抱えたまま歩き出し、窓に背中を押しつけた。
校庭は野球部やサッカー部などで賑やかだった。
「だ……めっ……見られちゃう……」
どうにか声をしぼり出したけど、
「先生は俺の女だ!」
彼はかまわず動き続けた。
窓ガラスがきしんだ。
割れないか心配だった。
「先生、気持ち……いい? 俺で満足できてる?」
「んっ、そんなの……いいから……」
初めてのクセに女に気を遣うなんて生意気だ。
こっちはそれなりに経験も重ねている。
そう思うことが、最後の強がりだった。
永田一樹がキスをがむしゃらに落としてきて、私は完全に溶けた。このまま彼と混ざり合って、ひとつになってしまいたかった。
「先生、くっ……俺もう、ダメだ。いい? イってもいい?」
「うっ、早く。ちょうだい……いっぱい、いっぱい……」
「先生!」
永田一樹は1度腰を引いてタメを作り、力いっぱいねじ込んできた。
「あっ、んあぁぁ!」
激しい収縮が始まり、それが頭まで突き抜けた。
「うっ、うわぁ!」
同時に彼もイったのが分かる。激しすぎる痙攣でそれが分かる。
流れ込んでくる圧倒的に若いしたたりを体の奥で受け止めながら、私は永田一樹を好きになったきっかけを思い出そうとした。
だけど、何度も何度もトライしたのにまるで思い至らなかった。
頭に浮かぶのはグラウンドで白球を追いかける彼の姿。
日焼けした前腕。その逞しさ。
ユニフォームの上からでも分かる、贅肉のないしなやかな体。
厚い胸板。
太い首。
大きな背中。
ゴツゴツと節くれ立った指。
笑顔。くしゃっ、と笑った時に刻まれる目尻のシワ。
すれ違った時の土埃の匂い。
そんなモノが次々と浮かんでは消えた。
きっかけなんてないのかもしれない。
日常の彼が徐々に私の中に刻まれていった。ただ、それだけ。
やがて気がつけば、永田一樹のことしか考えられなくなっていた。
恋なんて接触事故だ。男女がすれ違うだけで生まれる。
「先生さ」
繋がったまま、彼が耳元でささやいた。
「明後日、試合なんだ。見にきてくれよ」
私は曖昧にうなずいた。
だって、ダメなんだ。
どんなに心が彼を求めても、体が彼を欲しても、私は自分の立場を捨てることはできない。結婚をする。アメリカにも行く。
大人であることから自由になることはできない。だから、
「熱中症、気を付けなよ」
そんなことしか言えなかった。
そして窓の隙間から、また夏草の匂い。
ごめんね。心の中でつぶやいたら、胸がきしんだ。(おわり)
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