あらすじ
バブル景気前夜、ヤクザ者だった俺は、ベッドタウンに住む団地妻から借金を取り立てようとしていた。その団地妻は、中学時代憧れていた女教師だった。
団地のダイニングキッチンにて
1984年――
空前のバブル景気前夜。
まだ、翌年に大阪の弱小プロ野球球団が優勝するコトを誰も知らなかった頃、郊外にある団地の一室、ダイニングキッチンで、ひとりの女が奈落の入口に立たされていた。
「知らない! あの人のコトなんて私の知ったことじゃない! 帰って! 帰ってよもう!」
右肩上がりの経済成長を続けていた日本ではあったが、どれだけ国が豊かになろうと所詮経済は弱肉強食の世界だ。圧倒的強者の影には常に弱者が存在した。
「ちょっと離しなさいよ! さっさと帰んないと警察呼ぶわよ!」
女の名前は小川琴美(おがわことみ)。その悲痛な叫び声は琴の音とは似ても似つかない。掃いて捨てるほどもあるような不幸話を、琴美は抱え込んでいた。
琴美の夫は酒とギャンブルに溺れ、借金を重ね、妻と子どもを捨てて逃げた。その肩代わりを琴美が背負わされることになり、カタギではない者から借金返済を迫られるようになった。
今、琴美の腕をつかみ、強引に金を取り立てているカタギではない者――加藤真之介、それが俺だ。
「先生さ、俺たちに言ったよな? 悪いことをしてはいけません。借りた物はちゃんと返しましょう。そう言ったよな? 俺だって先生にこんな手荒な真似したくねぇんだわ」
「ないモノはないの! お願い許して……」
さっきまでの威勢はどこへやら。琴美は俺の腕にしがみついてきた。おっぱいが当たった。心躍る柔らかい感触だった。同時に苦い思いも込み上げてきた。
「おい、子どもが見てるぞ」
琴美は、俺が中坊だった頃の音楽教師だ。美人で聡明で優しくて、男子生徒の憧れの的だった。授業中の歌声は今も胸の中に残っている。本当に琴をはじくような、エレガントな歌声だった。
俺が卒業する前に、琴美は退職した。結婚退職だ。青年実業家と結ばれたのだと、母親たちが噂していたのを聞いた。裏切られたような気持ちになった。俺は琴美が好きだった。
「金持ちと結婚したんじゃねえのかよ?」
「ダマされたのよ! 私と一緒になった時には、すでに事業は傾いてたんだから」
「のぼせ上がるからだ。みっともねぇな」
琴美はキッ、と俺をにらみ、何か言いかけたが結局は口をつぐんだ。代わりにおっぱいをグイグイ押しつけてきた。
「私、もちろん覚えてるよ。真之介君のこと」鼻にかかった、甘ったるい声だった。「ねえ、聞いてもいい?」
「何だよ」
「怒んない?」
「怒んねえよ! 早く言え!」
「もう怒ってるぅ~」
「チンタラしてっからだ!」
琴美は肩をすくめた後、あのね、としなを作り、俺を上目遣いで見上げてきた。「真之介君、私のこと好きだったでしょ? しょっちゅう目が合ったもの」
安っぽい色仕掛けだ。着ている服まで安っぽい。琴美はところどころほつれた、淡いブルーのワンピース越しに、おっぱいだけでなく、体全体を押しつけてきた。
「情けねえな」俺は吐き捨てた。「だったら何だってんだ! 俺が好きだったのはあの頃のアンタだよ! 落ちぶれて、幼い子どもの前で男に色目使って、恥ずかしいと思わねえのか!」
「そんなコト言ったってしょうがないでしょ!!」琴美はヒステリックに叫んだ。「こっちだって生きるのに精一杯なだよ! アンタなんか、アンタみたいな人の生き血をすするヤクザ者に何が分かるんだよ! 子どもにだけは苦労させたくないんだよ!」
一通り吠えて琴美は力尽きたのか、その場にへたり込んだ。その様子を見て、獰猛な気持ちが湧き上がってきた。
憧れの人。聖職者。あの頃の凜とした佇まいはもはや、幻想でしかないようだ。パサついた髪と後れ毛。体も重力に抗えなくなっている。二の腕がタプタプ揺れている。金に翻弄され、疲弊した昭和の団地妻。
「俺さ、先生でよくマスかいてたぜ。音楽室で先生を犯すところ想像して、バックから何度も何度もぶっ刺した」
琴美は生気の抜けた目で俺を見上げた。ワンピースの胸元がぱっくり開いていた。貧相な乳。浮いたブラジャーの隙間から伸びきった乳首が見えた。俺は劣情に突き動かされ、彼女に下半身を突き出した。
「借金はチャラにはならねえ。だが、一週間だけ待ってやる。先生がプライドを捨てられるならな」
琴美はちょっと待って、と子どもを奥の部屋に連れていき、すぐに戻ってきた。そしておもむろに俺の股間をスウェットの上からさすり始めた。
すぐに琴美が口角をつり上げる。ペニスがすでに固くなっていたからだ。
「イケナイ子……私にどうして欲しいの?」
「吹いて欲しい。あの音楽室で、笛を吹くように。先生……」
けたたましいほどのセミ時雨。夕日が差し込む木造の音楽室。使い古した黒板。きしむ机。窓の外で揺れるプラタナス。そんなイメージがよみがえった。
俺はあの頃に戻っていた。ただ琴美に憧れ、でも遠すぎて触れることも適わなかったあの頃に――。
団地妻の使い古された乳首
締まりのない蛇口から漏れる水滴が、ポタポタとシンクの底を叩く。
俺は立ったままの体勢で、琴美は俺の前にしゃがんでいる。股を左右に開いたM字開脚の姿勢だ。パンティーもろ出しの彼女にプライドの欠片は見当たらなかった。
琴美にしゃぶられていた。ペニスを咥える琴美が頭を前後に動かすたび、ジュル、ジュプ、という淫靡な音が彼女の口から漏れた。
「ううっ…」
俺も思わず声を漏らす。琴美はペニスを吸い上げながら、根元まで咥え込む。そしてノドで締め上げる。ぎゅっ、と亀頭がつぶれる感触がやばかった。
欲情した男と女による粘膜のコスリ合いに、笛を吹くような優雅さは皆無だった。
琴美は開いた脚の真ん中にある女の避け口をなぞっていた。俺が命令したわけではない。脚も自ら広げたのだ。
「先生、好きだ……」
まったくどうかしている、と思ったが、本当に中学生の頃に戻った気がしたので仕方がない。琴美もまんざらではないようだった。
愛してるとか、美しいとか、俺と一緒になれとか、とち狂ったコトを俺が言うたびに、舌をカリに絡めたり、裏筋に歯を当てたりして刺激を高めた。
しゃぶられながら、琴美のぱっくり開いたワンピースの胸元に手を差し入れる。あまり起伏のない乳房の頂点に、コリ、と干しぶどうのような感触があった。
つまむと、
「ンンッ…」
琴美はビクリと体を震わせた。
指でつまんだだけで伸びた状態であることが分かる。旦那に吸われすぎたのか。子どもに吸われすぎたのか。あるいはその両方か。
俺は猛烈に、それを口に含みたくなった。琴美がこの10年で失ったきたモノの象徴であるように感じたからだ。失われたモノには彼女の恥が詰まっている。そう思うとなぜか感情が高ぶった。
ペニスを琴美の口から雑に引き抜いた。歯がカリにひっかかり、グリと痛みが走る。
「痛てーなコノヤロウ!」
反射的に琴美の頬を張っていた。「キャ」と短い悲鳴を上げ、琴美はその場に倒れ込む。俺は痛みに過剰な反応を示してしまう質だったのだ。
「わ、悪い、先生!」
「いいの、ちょっとびっくりしたけど大丈夫よ」
そう言った琴美の胸元からやっぱり乳首が見えた。俺は琴美に覆いかぶさり、安物のワンピースを破き去った。
琴美はまた悲鳴を上げた。
もっと優しくすればいいのに、と自分でも思うのだが、火がつくとどうしてもブレーキが効かない。
パンティーだけに剥いた琴美を乱暴に押し倒した。仰向けになった彼女の両腕を強くつかみ、おっぱいをまじまじと見つめた。伸びているだけではない。今まで気づかなかったが黒ずんでいた。
俺以外の男にどれだけしゃぶらせてきたのだろう。昔は、想像の中の乳首は、こんなんじゃなかった。ピンク色でツンと尖っていた。損なわれた美しさに思いを馳せたら腹が立ってきた。
「この淫乱女が!」
琴美にとって不条理な怒りだ。分かっている。でもとにかく腹が立って、ペニスもガチガチになって衝動を抑えることができなかった。
パンティを剥ぎ取って、体をひっくり返し、妄想の中の音楽室で犯したように琴美の赤い肉の裂け目に思いっきり突き刺した。
「ハァンっ!」
首をのけ反らせ、琴美の体が跳ねる。細い腰をつかんで幾度も突き刺した。まだ潤いきっていない肉のせいで摩擦が強く、少し痛い。
「あんっ、ヤっ、すごい! 真之介君! アァッ! だめ!」
でもその痛みがいい。突くごとにピリピリとした快感が全身に走る。俺の頂点はもうすぐだった。気持ちが入りすぎていた。
ズプズプ、ズシュ。次第に琴美も潤ってくる。おかげで俺のストロークはその速度を増す。ギシギシと床がきしむ。琴美の嬌声が大きくなる。
「ひぃっ、アンッ、アぁぁ! 当たってる! 奥に当たってるのぉぉ! やん、壊れちゃうぅぅ!」
「そのつもりだ!」
とどめに渾身のひと突き。今までよりもっと奥に突き当たった感触があった。
「ヒィぃぃぃぃっ!」
雄叫びと共に琴美の体がビクビクと跳ね回り、ペニスを絡め取るように膣がうねる。そして次の瞬間、急に体を弛緩させてグッタリとなった。
「おい、先生! おい!」
返事はない。琴美は失神している。憧れていた人を中イキさせた充足感が、俺の爆発の着火剤となった。
「ぬおぉぉぉっ、イクぅぅぅぅ!」
尻の奥あたりで生まれた快感が一気に爆発した。注射器に押し出されたように精液がほとばしる。琴美の体内に流れ、汚していく。
ドクドクドクドク――。
俺の全部をぶちまけてしまいたくて、俺は射精しながら腰を振り続けたが、やがて爆発的な快感は収束して満足したような、だけど同時に切ないような感覚に襲われた。部屋にはいつの間にか西日が差し込んでいた。
俺はペニスを引き抜き、琴美を仰向けに寝かせた。黒く伸びきった乳首が小刻みに震えている。毛布か何かかけてやろうとして立ち上がった時にはすでに、俺は琴美とその子どもを連れて組織から逃げる決意を固めていた。
――バブル前夜。
翌年に大阪の球団が優勝することも、この5年後に元号が昭和から平成へ変わることも、この時の俺が知るはずもなかった。(おわり)
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