あらすじ
旦那の弟、義弟のリョウ君を好きになってしまった。旦那が出張で家を空けている夜、顔を見せてくれた義弟に私は想いを告げるが……
※約3100文字
どうして旦那の弟を好きなってしまったのだろう…
気がつけば泣いていた。
テーブルの向こうにいるリョウ君が、ごめんね、と私の頭を撫でてくれた。
優しくなんてして欲しくない。
涙が止まらなくなってしまうから。
どうしてだろう。
どうして私はリョウ君を好きになってしまったんだろう。
どうして調子に乗って、旦那が出張の隙に想いを告げたりなんかしたんだろう――。
「私こそ、ごめんね。困らせたりして……」
しぼり出した声が嗚咽で震えた。リョウ君の手を取って、その細く長い指に未練がましい唇を押しつけた。
「ありがとう」リョウ君が優しく微笑む。
「僕のこと想ってくれて、嬉しい。でも、やっぱり兄さんの奥さんをそんな風には見れないよ……」
分かっていた答え。なのに苦しくて、息が止まりそうになる。
「もう、会えなくなっちゃうの?」
「そんなことないよ。義姉さんは義姉さんだから」
「私が旦那と別れたら? 私に少しは望みある?」
消えない未練。
悲しそうに目を伏せるリョウ君の長いまつ毛が小刻みに震えている。若くて誠実な彼にずいぶんと負担をかけてしまっている。
「無理だと思う。僕、兄さんのこと好きだから。兄さんが、義姉さんのこと大切に思ってるの知ってるから。だから……まだ大学生だし、責任も負えない。そんなことしても、みんなが不幸になるだけだと思う」
「だったら帰って」
「義姉さん……」
「もう会いたくないよ。旦那さえいなければって、最初にリョウ君と出会っていればって、どうしたって考えちゃうもん」
少し迷ったようだけれど、やがてリョウ君は静かに立ち上がった。そして、何も言わずに玄関へ向かう。ヒタヒタと足音が遠くなる。
耐えがたいほどの痛み。こんなにも私はリョウ君のことを……。
旦那と営む新しい生活は満ち足りたものだった。仕事で忙しい彼の帰りを待ちわびる日々さえ愛おしかった。
やげて念願だった妊娠。
幸福感が高まるのと同時に不安も大きくなった。相変わらず帰りが遅い旦那に不満が生じた。仕方ないと分かっていても、たまには早く帰ってきて、ありがとうのひと言。
そんなささやかな願いが贅沢なことだとは、どうしても思えなかった。
旦那がお酒を飲んで帰ってきた夜は、最悪な気分に拍車がかかった。愛は次第に見えなくなっていった。
リョウ君は、そんな不安定な時期に寄り添ってくれた。
兄さんは忙しいから、と旦那のことをかばいつつ、その代わり僕にできることがあったら何でも力になるよ、と言ってくれた。
他愛ないおしゃべり、優しい笑顔、温かい心配り。
体調が悪い時にメッセージを送ったら、息を切らせて駆けつけてきてくれた午後もある。不安でいっぱいな時に、私が寝付くまで手を握っていてくれた夜もある。
出産してもリョウ君は変わらず優しかった。子どもも可愛がってくれた。私が理想とする家族の風景を、それが錯覚だったとしても、彼は運んできてくれのだ。
そんなのもう、不可抗力だ。好きにならない理由があるなら誰か教えて欲しい。
なのに、こんなに好きなのに、リョウ君は今、私の前から去ろうとしていて。このまま永遠に会えなくなるような気がして……。
「本当に帰るつもりなの?」
玄関で靴を履くリョウ君の背中に私はしがみついた。
「行かないで。女に帰れって言われて本当に帰るなんて、サイテー……」
「だって義姉さん……」
「ねえ、抱いて」
「え?」
「今晩だけでいいから、リョウ君の女にさせて」
「そんなの……」
「あきらめるから。それで義理の姉と弟の関係にきれいさっぱり戻るから」
嘘だ。
抱かれたりなんかしたら、リョウ君への想いは底なし沼より深くなる。だけど、彼を繋ぎ止める術を他に思いつかない。
「お願いだから。今晩だけ夢を見させて……」
リョウ君のフワリと柔らかい髪に顔を埋めた。
「どうして男の子のクセに、こんなにいい匂いがするの?」
そう言うと、彼は笑った。私もつられて笑った。張り詰めていた空気が和んだ。
「義姉さん、あったかいね」
「抱きたくなった?」
「正直言うと僕……」
リョウ君はそこで言葉を句切ってから、恥ずかしそうに言った。
「僕、女性とその…シたことないんだ……」
「嘘でしょ?」私は少し驚いた。
「ああ、やっぱりか。そういうリアクション傷つくんだけど」
優しくてキレイな顔をしたこの男の子をニッポン女子はどうして放っておくのか、と怒りにも似た感情が湧いたけれど、私のために残っていてくれたんだと考えたら、きゅん、と胸が熱くなった。
「誰にでも初めての時はあるから」
だから心配しないで、と彼の耳元でささやいた。リョウ君はくすぐったそうに首をすくめた。
愛される準備はできている
リョウ君の手を引いて寝室に入り、並んでベッドに腰掛けた。
彼の震える手をそっと握り、胸に誘った。
「やべー……」
言いながら彼は恐る恐る私の胸を揉む。最初はくすぐったいくらい遠慮がちだった手の動きに、次第に熱が入る。
「アン…」
思わず漏れた声。
それでリョウ君のスイッチが入る。強く揉まれ、ピリリと背筋に電気が走る。
そのままベッドの上に押し倒された。
「痛かったら、言ってね…」
どんな時でも気配りを怠らないリョウ君は私のシャツのボタンを外そうとする。うまく外れなくて、焦れている様子が可愛い。
やがて全て外れたボタン。
リョウ君の前で下着が露わになった。下ろしたての下着。こうなることを私はずっと望んでいたのだ。彼と会う時は、いつだって油断しなかった。
リョウ君はホックを外すのにも苦労した。ていうか、結局外せなくて白旗をあげた。
「ごめん、義姉さん…ふがいない……」
心細い彼の声に、大丈夫、と答えて自分でブラを取った。
見て。旦那のためじゃない、リョウ君のためにメンテナンスを怠らなかった素肌。乳房。お腹も、足も、髪の毛先も、つま先までも愛される準備はできている。
リョウ君の首に腕を回し抱き寄せた。リョウ君の薄い唇が重なった。
丹念にキスを交わす。唇を吸い、舌を絡ませる。リョウ君の長い指が乳房に食い込むたびに、とろけそうな快感が走る。そろそろ欲しくなる。
彼の股間に手を伸ばす。私を求めて、ソレは固く大きくなっていた。
「きて……」
リョウ君の耳元でささやいた。リョウ君は私の身体を開き、最後の1枚を剥ぎ取った。
キレイな月
ヒダをかきわけ、リョウ君が真っ直ぐ入ってきた。
「アッ、んあっ!」
反射的に身体が反り返る。腰を掴まれ、奥までふさがれ、息が止まる。
「はぁんっ、アッ、アンッ、アアァッ!」
何度も何度もつらぬかれ、悦びで全身が震える。1秒ごとに好きがあふれる。リョウ君への想いが強くなっていく。
「義姉さん、あっ、僕、もう……」
「アッ、あん、いいよ、いっぱいちょうだい!」
リョウ君の心が欲しい。全てが欲しい。
彼の動きが一段と早くなる。私はもう1度彼を抱き寄せ、自ら腰を動かした。
「あっ、ああっ! 義姉さん!」
本当に溶け合えそうな密着感の中、いきなり。私の中からリョウ君がいなくなった。
「あっ、ん……」
当然だ。
優しいリョウ君は、私や旦那が傷つく可能性のある”しるし”を私に残したりなんかしない。
糸を引く快感の中、放出を終えた彼が私の隣で横になった。頭を撫でてくれたけど、もうキスはくれなかった。線を引かれたな、と思った。
カーテンの隙間から大きな月が見えた。2人で重なり合ったまま、あの月に溶けてしまいたかったな。
リョウ君を繋ぎ止めたくてついた嘘に、私はもう苦しみ始めている。(おわり)
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