ほとばしる快感
2人で牛丼を少しだけ食べて、2人でワインを飲んで、夕奈の体が火照ってきた頃、男は胸のタトゥーを触らせてくれた。
「中坊の時、ヤキを入れられたんだ。それを隠そうと思ってな」
「ヤキ?」
「タバコだ。火の着いたタバコを押しつけられたんだよ。先輩に」
「熱くないんですか?」
「熱いよ。おまえを北斗七星にしてやる、とか言って3か所、入れられた」
「7か所じゃなくて?」
「めちゃくちゃ頭悪かったからな、その先輩。北斗七星の星の数を知らなかったんだろう」
夕奈は笑った。男も笑った。すっかり打ち解けた雰囲気になり、触ってみてもいいですか、と聞いたら、ああ、と男は答えた。
ちょっと恐くて、そっと触れた。胸の上あたり。ヤキの跡がデコボコしていた。さすっていたら男が手を伸ばしてきて、夕奈の腕を掴み、猫に引っかかれた傷を親指でさすり返してきた。優しい優しいタッチだった。
夕奈は男のひげにも触れたくなり、手を胸から顔へ移動させた。まず頬に触れる。次いでアゴ。ジャリ、という感触。でも思ったより固くなかった。
両手で頬を挟んで、自分の方へ軽く引っぱった。男の顔が近くなる。鼻と鼻がかすかに触れる。夕奈は、はぁ、と息を吐いた。
「お酒、臭くないですか?」
多少は、と男はつぶやいた。
「イヤですか?」
「別に」
男は静かに唇を重ねてきた。そして夕奈の上唇を軽く吸ってから、すぐに離れた。
「ヒゲ、痛くないか?」
「別に平気です」
そしてまた、男の唇。
今度はさっきよりも長く濃厚な接触。
チュパチュパ音を立て、絡まりあう舌。男の舌は、夕奈の頬の内側を這い、舌の裏にも入ってきた。
ひげのチクチクした感触。でもそれさえも、夕奈に甘い刺激を与えるだけだった。
「普通は…こんなことしないんです……」
「ああ」
「めっちゃ保守的な女なんですよ」
「人生は長い。そういうこともある」
そう言って男は座席の後ろに移動してタンクトップを脱いだ。
「イヤになったら言え。無理強いはしない」
座席の後ろはベッドルームだった。
大型トラックには、このような空間が車体のどこかに設けられているらしい。
決して広くはないけど2人もつれ合うには十分だった。
会ったばかりの素性も分からぬ男。
ためらいがないわけではない。だけど夕奈は、男が放つ色気にどうしても吸い寄せられてしまう自分を止めることができなかった。
ベッドルームに移動して男に抱きついた。男は後ろに倒れた。男におおい被さるような格好になった夕奈は、さっき指で触れたヤキの跡に舌を這わせた。男は目を閉じて、夕奈の背中に腕を回してきた。
気持ちいいのだろうか。ここよりも?
夕奈は今度は、乳首を舐めた。男は「うっ…」とうめき、体をピクリと震わせた。初めて男より優位に立った気がして調子に乗った。
舐めて、吸って、わざと音を立てたら男の手は夕奈の背中から胸に移動してきた。サイズにはあまり自信がない。男の大きな手にすっぽり包まれしまう乳房を少し不憫に感じた。
でも。
「おっぱいキレイだねって、ほめられるんです。たまに」
そう言うと、男の手に力が加わった。
「んっ…」
何度か揉まれているうちに、ブラの上から固くなりかけたグミを探り当てられてしまう。
「アッ!」
思わず漏れた声。
やべーな、とつぶやきながら男は夕奈のTシャツをたくし上げる。そういえばシャワーを浴びていない。匂いが気になったが、今さら後には引けない。
男は起き上がって夕奈のTシャツを脱がせ、じょじょに鼻息を荒くした。
「本当だ。キレイだ……」
ブラを剥ぎ取った男は夕奈の乳房にむしゃぶりついてきた。揉まれ、吸われ、男の舌でコロコロ転がされるグミ。そのたびにピリピリ電気が走った。
「あっ、んっ……」
男に押し倒される。乳房だけではなく、男は夕奈の体のいたるところに舌を送ってきた。首筋よりも鎖骨が感じた。耳よりもワキがヤバかった。匂わないか心配だったけど、男の舌は次第に下へ降りてきた。
みぞおち、おヘソを通ってとうとうその場所に達する。気配だけでゾクゾクするのに、ショーツの上から縦に走ったスジを指でなぞられ、
「ひぁッ!!」
ほとばしる快感。
はしたない体液があふれ出すのが分かる。
下品な子だと思われるのがイヤで、身をよじって男の指から逃れようと試みるが、すぐに行き場を失ってしまう。そうするには、ここは狭すぎる。
ショーツを脱がされる。男の舌が直接縦スジに触れる。花びらを唇でつままれ、吸われ、突き出した花の芯をはじかれる。
「アァっ!」
男の舌が何度も何度も縦スジをなぞり、息を吹きかけ、芯をはじき、ピチャピチャといやらしい音を立てる。悦楽に支配され、恥じらいなんて彼方へ飛んでしまう。夕奈はケモノの声でさらなる快感を求める。
「アッ、あんっ、すごい、あぁ…!!」
欲しいなんて言わない。腰をくねらせ、おねだりする。男は夕奈のシグナルをキャッチする。そうして機が熟したことを知る。
舌の動きがふいに止まった。男はじらさない。愚直だ。体を起こすと作業ズボンとボクサーブリーフを脱ぎ捨てて、いよいよ夕奈の中に入ってきた。
「アァァァッ!!」
男の立派なモノをすっかり飲み込んでしまった夕奈。圧迫感で息が一瞬止まる。繋がっているのだ。数時間前に出会ったばかりの男と――。
湾岸沿いの高層階ではない。海も月もビルも見えない狭い空間。広げられた自らの脚の真ん中にタトゥーを入れたおじさんがいる不思議。夕奈が男の胸のヤキに触れると、男は押し返すように動き出した。
少し動きにくそうだ。でも、そのぎこちない動きがかえって新鮮だった。えぐられるたびに、やっぱり夕奈はケモノになってしまう。
コンビニの安ワインによる酔いが、さらに夕奈を狂わせる。
男の動きに合わせて悲鳴に近い雄叫び。自分の声ではないみたいだ。車体の揺れもまた、夕奈の新鮮な快楽を増長させるばかりだった。
視界がかすみ、目を開けていられない。男の動きが激しさを増し、粘膜同士が強くこすれ合う。一撃ごとの重い衝撃がズシリと突き抜けてきて、脳天にまで響く。
予兆が生じて、それがアッという間に全身へ広がっていった。
叫んでいる、という感覚だけがあった。でも自らの耳に届かない。五感が剥奪されて、ただ著しい快感だけに体が支配された。夕奈の頭はブラックアウトして、暗闇の中に一瞬、北斗七星が浮かんだが、それもすぐに砕け散った。
夕奈は気を失った。男が満足したのかどうか分からなかった。
男の名前を……
「気がついたか」
目を覚ました時、夕奈はベッドにひとりだった。毛布をかけられていた。男は運転席に移動して、呑気にもしゃもしゃ牛丼を食べていた。
まだ朦朧とする意識ではあったが、体が異様な空腹をうったえていた。
「ひとりだけずるい」
夕奈が唇をとがらせると、男は夕奈の分の牛丼を寄こしたが、受け取らなかった。「食べさせて」
男がサイドシートをポンポン、と叩く。夕奈は毛布にくりまりながら男の隣に移動する。外はまだ、真っ暗だった。
食べさせてもらった。冷たい上に肉が固かったけど、元彼と食べるどんな高級料理より美味しかった。
空腹が満たされるとまた睡魔に襲われた。急激に遠のいていく意識の中で、そういえば男の名前を聞いていなかったな、と思ったが、言葉を発する余力さえ残っておらず、夕奈はそのまま深く心地のいい眠りの中へ落ちていった。(おわり)
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